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メキシコのアカプルコ西で観光客向けに「La Quebrada(ラ ケブラダ)」というクリフダイビングショーがあります。45mもの高さの自然の崖の上から男たちが海へダイビングするというもの。崖下は入り組んでいて海はすごく幅が狭くしかも水深4m位しかないという。男たちはまず対岸から海へ入り、そのまま断崖を素手でスルスルと猛スピードで登り色々な高さから皆飛び込み、最後一番高い所からファイナリストが飛びます。
私はそのケブラダを’90年代に初めて見た時に衝撃を受けその後何度も足を運びショーを楽しみました。すぐにClavadista(ダイブする男たち)と仲良くなりよく話をしました。特にRolando(ロランド)当時35才。ほんの2~3人しかいないファイナリストの1人です。
‘99年5月にそのロランドから聞いた話(正確な話かどうかはわからない)。
ケブラダが始まったのは65年くらい前。現在56人のClavadistaがいて中には12才の子供もいる。ロランドは8才から飛び始めて20才頃からケブラダのClavadistaになった。父、兄、甥もClavadista。現在姪は飛び方を指導している。’90年に3人のClavadistaが日本に呼ばれて九州の指宿にある観光ホテルのレストラン「アカプルコ」前のビーチで木の上から海にダイブするというレストラン客向けショーの為半年間滞在した(これは私もその時の新聞記事を見ました)。アカプルコではこれまで観光客が真似をして勝手に崖から飛んで亡くなったことはあるがClavadistaが死んだ例はない。ベテランは回転したりひねりを入れたりして飛ぶ。皆飛ぶ前に下の波を読んでタイミングを計る。下にいる人は手を切ったりしないように葉っぱやゴミを拾う。
ロランドはそんなことを細かく身振り交えてたくさん教えてくれました。
ある日ロランドが私に昼間のClavadistaの練習を見せてくれると言って通常は入れないあの崖に特別に連れて行ってくれました。すると皆なんの躊躇なく次々に海へ飛び込んでいました。上からそっと覗きこむのも怖い断崖、そして岩場はただ普通に立っていることさえ難しいくらい危険。ロランドが私に飛び方を教えるから体験してごらんと言ったけれど足がすくんでできそうにないし、海はクラゲだらけだったのでやめました。そして普通は絶対に入れないのだけれど崖の一番上のファイナリストが飛ぶ所へと連れて行ってくれました。もうビックリ。まずその高さ、飛び込む海の幅の狭さ。そして飛ぶための足場は素足の両足を揃えてやっと置くことのできるギリギリの大きさしかなく、しかも前に突き出ている。私は下を見るだけでガクガクしてその足場に立つことはできなかったです。この場所まで海から素手で、しかも猛スピードで登って来て夜は松明を片手に回転やひねりを入れて海に飛び込むなんて。下は自然の海だから毎回様子が違います。しかもロランドが言うにはある程度前へ飛び出ないと落ちる途中の突き出た岩に当たってしまうし、海に入った瞬間すぐに上を向かないと水深が浅いから(たった4m)頭を打ち死んでしまうと。何という技術かと私はただひたすら驚いていました。
するとロランドが突然「ねぇエリ、ここに何て書いてあるの?」と言って私の前に白いTシャツを広げました。そのTシャツには日本語がマジックで書いてありました。私はそのまま声を出して読み上げました。「ロランド様 空に 太陽が(あれ、もしかして…) ある 限り(やっぱり!) にしきのあきら(サイン)‘97.9.28」 えーーーっ、!?
私はロランドに訳して説明もしましたが、逆に訳わからず心底ビックリしていた私にも説明してくれたロランド。
ある日本のTV番組の企画でケブラダを挑戦する為に、にしきのあきらがここに来たとのこと。その時にロランドともう1人が彼に飛び方の指導をしたそうです。そのお礼にもらったTシャツだと言っていました。にしきのあきらが飛んだ場所は崖の真ん中辺より低いあの場所だよと教えてくれました。
私はケブラダに挑戦したその番組は観なかったけれど、その後2000年にTVでにしきのあきらがその時の体験談を話しているトーク番組は本当に偶然観ました。
このロランドは99年3月にインディヘナ(原住民)と結婚。でも彼女の民族の習慣で1年間はお試し期間だそうです。1年後にお互いが良ければ正式な夫婦になるとのこと。ロランドは「ずっとエリを待ってたけど来てくれなかったから結婚しちゃったよー」とお決まりのセリフを言いながら婚約者を紹介してくれました。彼女は家族と共にケブラダ近くの観光客向けの屋台で手作りの“操り人形”を売る、とても大人しく可愛らしい娘でした。
荒々しい断崖の風景と、微笑ましい操り人形の屋台、相対する二つ、どちらもアカプルコの美しい夕日の情景と共に胸に浮かび、今でも私をキュンとさせてくれます。